鑑真が伝えようとした戒律とは
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釈迦が悟りを得て布教活動を行い、仏教教団が形成された結果、団体を維持するための規則が必要となり、釈迦の在世中はその時々に応じて釈迦が規制を定めた。ゆえに、これらの規制には「~してはならない」という禁止事項が多い。
釈迦が亡くなる直前の言葉は以下であった。
アーナンダよ、あなた方のため私によって示し定めた「法と律」が、私の死後は、あなた方の師である。
— パーリ仏典, 大般涅槃経, Sri Lanka Tripitaka Project
釈迦の死後、教団の維持・発展が残された弟子たちの使命となり、弟子・迦葉が招集して開催された第一結集において、持律第一と称された優波離を中心に律蔵の再編集が行われた。以降、僧侶たる者は経・律・論を全て修めることが求められるようになり、これらを全て修めた者は三蔵と呼ばれた。
しかし釈尊の死後から100年後、戒律の1つの僧侶の財産の所有禁止という項目を巡って、上座部と大衆部との間で論争が起き、教団は2つに分裂した(根本分裂)。
いずれにせよ、律の条項を遵守する事は多くの部派において必修であり、僧侶と在家信者を区別する最大の理由として受け継がれている。現在においてもタイやスリランカの南方仏教では戒律が厳守されており、中国からベトナムにかけての大乗仏教、チベット密教におけるゲルク派などにおいても概ね同様である。ただし、後世のインドやチベットで行われた後期密教、日本の鎌倉仏教など、律ではなく戒によって僧の資格とするもの、あるいは浄土真宗の戒すら不要とする「無戒」論などがあり、しばしば異端視される。
ウイキペディア「律」
戒律は本来小乗仏教のもので、インドで自治的な僧団を形成した僧たちが、信仰生活を送る規範にした戒めや規律。
戒律の戒は道徳的戒、律は僧団生活の規律。戒律は釈迦が弟子たちに示したとされるが、その内容を記した経典(律蔵)が幾種類もあるように、インドでも次第に細かな差異が生じた。
小乗仏教は個人の修行を通じて悟りを開き救われることが目標なので、細かな規律が定められ、厳しく守られる。一方、大乗仏教は個人の悟りを求めるだけでなく、全ての生き物が救われることを目指し、その過程で大切なのが、他の人のために尽くすこと「利他行」。小乗仏教では将来悟りを開いて仏になることを望む人は「菩薩」。大乗仏教では自分の生活態度をきちんと律しながら「利他行」に励むのが「菩薩」。他人に尽くすに励む菩薩になると誓う菩薩戒は三つの要素で構成され、第一は生きていく上に大切な戒(摂(しょう)律儀(りつぎ)戒(かい))で小乗の戒とほぼ同じ、第二は善い行いを薦める戒(摂(しょう)善法(ぜんほう)戒(かい))、第三は全ての生物の為に尽くす戒(摂衆生戒)三つ合わせて「三聚(さんじゅう)浄(じょう)戒(かい)」。菩薩戒の経典「梵網経」では、総数58の戒、特に重大な禁止事項が十戒、比較的軽いのが48戒(十重(じゅうじゅう)四十八(しじゅうはち)軽戒(きょうかい))だが、小乗に比べると少ない。
小乗仏教の戒律である「4分律」を鑑真は専門とした。戒律に背くと僧団から処罰された。最も重いのは波羅夷で僧団から追放され還俗することになる。原始仏教時代以来、僧尼は出家して俗世間と関係を絶ち、治外法権の世界に生きており、罪は僧団が裁く。絶対王権の中国皇帝に対峙し、僧団の自治を守る関係は日本との比ではなかった。
大乗仏教でも戒律の重要性はみとめられていたが、小乗仏教の戒律は大乗にそぐわない面もあり、大乗にふさわしい菩薩戒が生まれた。小乗の戒律と大乗の融合などの難題に取り組み四分律の研究では道宣(南山律師、南山宗)、彼に学んだのが道岸、彼に授戒したのが鑑真。ほかにも宗派がある。
具足戒 小乗仏教の規範。正式の僧または尼になり、俗世間から離れ、悟りを得て、僧団に入って修行するときの決まり。僧団は僧伽藍(サンガーラーマ)中国では略して「僧」または「僧伽(そうぎゃ)」、僧団のある場所は「伽藍」。戒の数は鑑真の時、四分律では250,女性は348.20歳以上、五体満足など遮や難という審査基準があり、その条件を具足したひとが授かるので具足戒という。授戒は主たる三人の僧と、七人の立会僧で「三師七証」筆頭は和上。具足戒を受けた後「二京(長安、洛陽)を巡遊し、学を三蔵に究む」東征伝。三蔵=経、律、論(注釈)=仏教学全体
鑑真は四分律に基づく南山律宗の継承者であるが、別の律宗である相部宗、天台宗、浄土教を多くの高僧に習う。
菩薩戒(俗人が沙弥になるための戒)
1 殺生をしない
2 盗みをしない
3 性行為をしない 邪淫、俗人なら不倫
4 うそをつかない
5 酒を飲まない
6 花で身を飾ったり、体に香油を塗らない
7 歌舞や演劇などを自らしたり、見聞きしない
8 立派な飾り付きの大きな腰掛をつかわない
9 朝食・昼食のほかに、食事をとらない 病気などの時は例外。非時食
10 金銀や宝物をもたない
他に沙弥としてのふるまい72戒 「沙弥十戒法幷(ならびに)威儀」
参考文献
「鑑真」東野治之 岩波書店2009.11
「天平の甍」井上靖 新潮社 2005.8
「日本美術全集 7」小学館 2014
「仏像」山と渓谷社 2006.4
「仏像の事典」成美堂出版 2007.11